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淫徳のスゝメ
第4章 私が天涯孤独になったこと
「さて、姫猫。あとはきよらだよ。彼女はどうする?」
お兄様はお母様の亡骸を葬儀の業者に預けると、仏野の管轄下にある諸々の機関に連絡をとり始めた。お父様の部下達に、一人も新たなあるじに異論を唱える者はないようだ。
「まづるさえ良ければ、きよらは生かしてあげても良いと思うわ」
「良いの?姫猫さん」
「はい、その代わりお願いがありますの。久美子さん」
私はペンキで手を汚さないように気をつけながら、きよらをくるんだシーツをほどいた。
赤くなった肉体は、ロープをといても反撥しなくなっていた。ただ、尽きていた涙が再び溢れて、性懲りもない哀惜が、私の腸を煮やす。
「久美子さん達の社交クラブには、人材の調達のために契約されている風俗店があるとおっしゃっていましたわね?きよらはそこに提供します。新しい当主は、きっときよらのような落ちこぼれがいては仏野の恥だとおっしゃる。だから、きよらを無期限で働かせられる、住み込みの店へ連れて行って下さいませんか」
「お安いご用よ。ふぅん、これが貴女の妹さん。貴女と違って地味だけれど、身体は立派ね。化粧をさせて、ちゃんと髪を整えれば、穀潰しにはならないでしょう」
「お許し下さい……。出て行きます……。お母様の葬儀が、ひく…………終わったら、私はどこかへ消えますから……このことは口外しませんから…………」
深更、黒塗りの外車が門前に停まった。見るからに怪しげな乗員らは、久美子さんの使いで訪ったことを私に告げた。
私は、例のごとくパンティもつけていなかった。
まづるとお兄様、それから贔屓のメイド達を交えて、今日の成功を祝っていたからだ。
私はきよらを男達に引き渡した。契約金を突き返して、代わりに彼ら一人一人に小切手を握らせた。きよらが粗相をしても、決して送り返してこないよう念を押すためだ。男達は私に跪き、きよらを引きずって出ていった。
「お姉様……助けて下さい……お姉様ぁ……」
媚びた声だ。
無力なくせに主張はして、大した矜持もないくせに、最もらしい理屈は並べる雑音。
私は、聴覚を閉ざしていた。
第4章 私が天涯孤独になったこと──完──