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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
両親を一度に奪われて、優しく明るかったはずの幼い記憶が出自ごと塗り潰されて、二年が経った。
私は、十八歳になっていた。
片田舎の高校が、あれからどうなったかは、私の知るところではない。
今思い出しても心身氷点下をしのぐ狂気に焼かれる思いのする地獄の日以来、私は俗世を隔離されていた。
私が収容されたのは、一等地の高級ソープだ。
一定以上の収入があり、隔月の健康診断を通過して初めて利用権を得る客だけが出入りする店だ。接客する男女は見るからに良家出身の容姿や身性をしており、教養もある。彼らの誰もが、お父様にもあった横柄な性質を備えた客達の要望を、分け隔てなく聞き入れていた。
お姉様が私を暴力団達に引き渡したあの夜、私の寝床はこの店の地階に位置する物置倉庫になった。
風呂やトイレなどはない。私は営業時間外、四肢を鉄で拘束されてここにいる。夏は蒸せ、冬は冷える。この環境下で私が二年生きていられたのは、けだしここに戻る時間も一日の割合の中でとるにたりなかったからだ。
「きよらちゃーん。店長と一緒にディナーしよー」
口蓋垂が傷んだ具合の、男にしては高い声が、鼓膜に障った。
無音を破ったのは店長だ。彼はぞんざいに入ってくるや、私の手首、足首に嵌った鉄の輪の鍵を外していった。