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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
* * * * * * *
新たな家族を屋敷に迎えて二ヶ月が過ぎた。
深更、有本さんの屋敷から戻った私に、メイドが一本の電話を取り次いだ。
受話器を通して聞こえたメゾは、私の中で既に来し方の影となっていた女のそれだ。
蓮美先生は私の近況を訊き、高校を中退したきよらについて聞きたがった。私はありのままを話してやった。すると蓮美先生は、大いに笑って私を口説いた。姫猫のこと、本当に好きになってしまいそう。
「姫猫」
にわかに私の上体にまといつく腕があった。
受話器を置いた私の肌が、瞬く間に揺り籠に置かれた赤子のごとく安堵を得る。
私の不在中、まづるが屋敷を訪うことは茶飯事だった。そうした時、メイド達は彼女を落ち着ける部屋に通して、私の代わりに接待する。
今夜も例にもれなかった。
「大丈夫よ。まづる、蓮美先生との関係も、私にとっては立派な娯楽よ。私は昔の私じゃない。もっとも、今の電話は久し振りだったけれど……」
正味、蓮美先生とは三年に一度の交流だ。十五歳で懇ろになり、十八歳で三年振りにまぐわって、二十一歳のたった今、電話があった。
電話は誘いの用件だった。
善良を気取った愛国家達に言わせれば、インモラルで反社会的、にも関わらず彼らと同じ仮面を被って日々を送っている宗教学者は、とうとうその本性に見合った仕事を始めた。
「まづる、明日は空いているかしら」