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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
「姫猫と違って平凡な分、貴女の安寧も実に固い基盤だわ。我慢や同情を戒める必要もない、さっきのように好きな時に同情心を働かせても、それが原因で命数が破綻することはないし、おまけに学業を終えたあとは、特に野心を燃やさなくても、人並みに羨まれるだけの毎日は送れる。姫猫が没落してしまったら、貴女がメイドとして雇ってあげるのも手ね」
「ご冗談を」
「ええ、冗談」
蓮美先生は使用人を呼びつけて、女体と水晶を片付けるよう指示を出した。
「だって、早良さん、あと三年も生きられないもの」
蓮美先生の口振りは、たった今までの占い師を気取ったものであって、彼女自身がおどける時のそれでもあった。
「私も没落するということ?」
「裕福なまま死ぬということ。ただし、財産も富も全て見限って、ひっそりと暮らすというなら別の道が見えていたわ。おそらく愛する人と共に、途方もなく長い生涯を幸福に送れる」
「蓮美先生、それはハズレだわ。まづるは私と同じで永遠の愛になんて興味がないの。まづる、貴女の家に強盗でも入るんじゃない。念のため警備を強化すれば?」
「そうだね。父さんを妬んでいる議員もいるから、蓮美さんの占いがインチキでないのなら、もしかしたら彼らが不法なことをするのかも知れない」