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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと

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 見知らぬ土地に暮らして二年、摩訶不思議の牢獄に禁足された私は発狂して、三度目の夏を迎えるまでに、あらゆる奇行に走っていた。



 私は、田舎の庶民と結婚した。


 私には、攻撃的な村人から私を庇護する後ろ盾が必要だった。何より、一人寝という空疎の地獄を脱け出す理由を欲していた。


 つまり私は、人脈と、肉体における充足のためだけに、愛してもいない女に嫁いだのである。





 小野里律子(おのざとりつこ)は、あの絶縁した実妹に優って芋臭い。

 祖父母と両親は農家を営んでおり、律子自身は美術館に勤務して、毎朝自家用車で一時間以上もかかる観光地へ出向き、昼間は高齢者好きのする顔で、企画の業務に関わりながら、見物客らに愛想の大安売りをしているらしい。



 私が律子に出逢ったのは、昨年の盆祭りでのことだ。

 例のごとく集落特有の結束意識に熱せられた住民らは、葉月中旬、市民館に寄って集まり、貧しい乱痴気騒ぎを夜通し行う。行事の誘いは、私の元にも回ってきた。私に残った下働きは、論をまたず丸井一人だ。丸井を相手にしてはいたが、その時分にもなると、私達はいわゆるセックスレスになっていた。限界だった。私は、まず股を開かせる相手を吟味せんと盆祭りに顔を出したのだ。



 同い年ということもあって、私と律子はすぐに打ち解けた。それから婚約に至るまでは、お兄様と紀子さんと同じくらい早かった。

 結婚までがもたついたのは、例のごとく白痴な人間達の妨害が入ったからだ。身許の暗い、ペニスもなければ精子も持たない、おまけに彼らにしてみれば人形のような装束をして平気で外を歩ける女は、信頼に値しないらしい。

 もっとも、最後に愛とやらが勝利するのも、人間の愚かな方程式だ。

 私と律子は愛し合っていた。少なくとも、律子は私を愛していた。私達はチャペルを歩いて指輪を交わして、公共の面前で舌を絡めるキスをした。



 そうしたとち狂った宴を経て、同じ屋根の下に暮らして半年になる。
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