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淫徳のスゝメ
第1章 私が淫蕩に耽るまでのこと



「すごいわよね、貴女のお母様。驚かないのね……分かるわ。これがあの女の本性、貴女も知っていたのかしらね」


 蓮美先生は、ダビデの町や救世主の話をしている時のように、饒舌な講義を展開していった。


「私がまりあと初めて話したのは、仏野さんも知っている通り、昨年の春の家庭訪問。彼女は美しくて慎ましやかで、そうね、一般が模範と定義する愚かを絵に描いたような女性だったわ。そう、私が本性を暴いてやりたくなるのに相応しかった。私が宗教学を志したのは、宗教こそ人間の傲慢、愚昧、独尊的な本質をオブラートにくるんだ幻想だから。神聖な神の絵姿を模して、神聖な神の言葉を騙って、人間を惑わす反逆精神。まりあは私が寝台に横たわるよう命じた時、こう言ったわ。亭主のいる身でそのようなことは出来ません、と。哀れな女だと思った。大昔の人間は、誰が誰との子を産んだか、まして性器や指でまぐわった相手の名前なんて、いちいち記録してもいなかった。それが神だの法律だのにこだわる時代になって、人間は恋人という枠に特定の人間を当てはめて、戸籍という紙切れに、パートナーを呪縛していった。神は万人を平等に愛していると言っている。そのくせ人間の解釈した神は、重婚や不実を罰することを許している…………なんて矛盾。国民に安寧を約束するために置かれたルールは、結局、そんな風に謳っておくことで彼らを思いのままに出来る、独裁者の洗脳材料なの。神道以外の信仰を許さなかった、昔の日本が分かりやすい例かしら。悪質なのは、何もカトリック圏だけではないわ。むしろこの土地。私はそういうものを嘲笑いたい。嘲笑ったところで不正でないと確信するため、この学問を極めていった。現に、まりあはすごかった。私をことごとく拒みながら、あの写真を見れば分かるわね?まりあだって、人間が捏造していったルールになんて、毛頭傅くつもりはなかったのよ。淫らな女の肉体は、水浸しだった。あの女のことだわ、戸籍に結束された仏野聖司の下でさえ、あんな痴態は見せなかったほど──」…………
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