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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
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家族団欒の時間は苦痛だ。
有限の富に有限の娯楽、狭隘な箱庭にこもる貧民達ほど、はした感動をさも大袈裟に議論する。彼らは血縁を根拠に管理し合えるとたかをくくって、義務に追い立てられてでもいる具合にコミュニケーションを図っては、互いに監視せんばかりにその日ごとの出来事を語らう。食卓の場であれば、親は子供の(成人していたとしても)の健康面を名目に、肥らせるだけ価値の高まる家畜に餌を与えるように摂食を促す。博識を気取りたい気分になると、政治やら芸能界やらの話を持ち込み、それにも飽きると近隣住民の噂話に花を咲かせる。そして、他人を批判したり妬んだり、稀に賞賛することはあっても、結局のところ正当は自分達家族なのだと小さな傲慢に落ち着くのである。
その点、律子の仕事熱心ぶりは、ある意味私の奇行に報いていた。
律子の帰りが遅ければ、少なくとも起きてまで彼女を待つ人間はいなくなるし、元々彼女の肉体にのみ関心のあった私が、早いところ貧しい宴がお開きにならないものかとやきもきすることもない。