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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
これだけ情熱的に愛し合っている、小野里家の新婚は、しかしながら相容れないところがあった。
律子や姑、舅という虎の威あって、私に不躾な好奇心をぶつける人間はなくなった。
同族、つまり私に匹儔して垢抜けた女達を例外にすれば、私は私の化粧や装束が評価の対象になることを嫌っている。なかんずくこの土地の人間が、今でも私に浴びせる失言の数々は、聞くに耐えない悪意を感じないではいられない。
その点、律子は私にただの一言も禁句を見舞ったことはなかった。私がセックスの相手を求めていたのと同様に、彼女にとっても、私という肉体を包装している夾雑物については気にとめるに値しなかったのかも知れない。
律子の欠点は、その奥ゆかしい精神の中にこそあった。
「気に入った女性が犯されているところを観賞するって、律子、どう思う?」
「ありえないわ」
縁起の悪い鬼胎を笑い飛ばしでもする風に、律子が私を抱き寄せた。
「姫猫。貴女がどこから来たのか、どんな風に生きてきたのか、私は全く知らないわ。予想するところによると、貴女と丸井のお義姉さんは良いところのお嬢さんで、厳しい親子さん達から逃げてきた。でも、私は愛する人の素性だとか、隠し事だとか、そういうものは気にしない。姫猫は美しい。その美しさのために、私の想像を超える経験をしてきたのかも知れないわね。過去の貴女は何か隠しているかも、でも今の貴女に隠し事はない。そうじゃない?」
恋に恋する少女のような律子の口調も上の空、私の意識は、昼間に読み返していた官能小説に置いてけぼりになっていた。