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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
「ほら見なさい。貴女は昔からいやらしいのよ。あんな恥ずかしいものを輸入して……。地方の新聞じゃ、どこも小野里の名前が出ている。お母さん、貴女の美術展へ行ったでしょう、正直、貴女を連れて帰りたくなったわ。姫猫さんの件は認めた。経済面に問題はなかったし、農業の跡継ぎだって、百歩譲って、施設のお子さんを一人育てさせてもらえれば、一応は社会の貢献になるからね。律子、まさか裁判に出ようだなんて考えていないわよね?貴女さっさと仕事をやめて、どこか普通の会社に就職なさい。ああ、当分は難しいわね。こんなにことが大きくなったのでは、どこも雇ってもらえない……」
お義母様は、手のひらを返したように律子を見下すようになっていった。
美術館の職員達は、律子を擁護しようと奔走している。
彼女らの働きがあって、当面、律子は解雇こそ免れているが、近い内に法廷に呼ばれることは確実だ。事実、賛否五分五分だった企画展は、報道陣が批判派に加担した記事を書き立てただけで、世間は彼らに付いたのだ。風の噂によると、ロレーヌやらセレスティーンやらに感銘を受けた客達まで、小野寺律子というポルノ好きのマニアが打ちのめされてゆく様を楽しみにしているらしかった。
「律子さん。気になさることではありません。世間とは、少し目新しいものを見ると、無理矢理にでも解釈をしたがるものなのです。特に人間は批判の生き物。マスコミや見物客の態度からも分かるでしょう、彼らは日頃芸術なんて興味もない、だのに貴女にとって不利な状況が始まった途端に、貴女の不幸に味をしめて、原因となった作品まで、表面だけ見て罵倒する。今や彼らは、あれがポルノか猥褻かはどうでも良いんです」