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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと







 こうして美園は、熱心に通いつめていた。



 秋が深まり、彼の指名がない日はもっぱら肌寒さが私をおびやかすようになっていった。


 その日、美園はいつになく神妙な顔で私を訪ねた。



「娘にならないか?」



 美園は続けた。

 教員をしている弟は、郊外のあるミッション系女子校に勤務している。そして彼は数年前、ある生徒に性的暴行を加えていたらしい。生徒は行方をくらましたが、弟から彼女に関する自慢話を聞いた美園は、彼を叱りつけたという。


「私はね、きよらちゃん。弟が正当な理由で生徒を叱って、その顔を可愛らしいと思う分には納得している。男はそういう生き物だ。しかし本当に手を出してはいけない。弟のしたことは犯罪だ。私か議員を志してさえいなければ、彼女の代わりに彼を法に訴えていた」


「…………」


「弟が暴行を加えていたのは、君だ」



 美園は私に訴えた。弟に代わって謝罪したい、この店に私がいたのは偶然で、きよらという籠の中の鳥を気に入ったあまり身許を調べた結果、このことが分かったのだという。


「迎え入れるのは娘としてだ。きよらちゃん、こんな程度で弟の罪は消えない。だが、君の身柄を救うことは出来る。君が望むなら別の身元引受人を探そう。きよらちゃんがこの話を受けてくれるなら、私は今日までのような関係はやめる」



 凍てていた私の心魂の深奥、誰にも触れられることを戒めていた柔らかな場所から、お母様の声が聞こえ出す。



『…──貴女は心の美しい子。正しい子』



『どれだけ人に尊敬されても、どれだけお金があっても、神様は必ず見ているわ。きよらは、皆に優しい子でいて。思い遣りがあって、周囲の人達のお話をよく聞いて。そうすれば、誰もが貴女を愛するわ。貴女は皆を愛し、皆は貴女を必ず愛する。きよらがお母様を愛して、お母様がきよらを愛しているのと同じにね』



「…………」
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