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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと
姫猫が仏野を追放されて、三度目の冬が訪った。
私が彼女と春を共に過ごしたこの学校に籍を置くのも、残すところ三ヶ月弱だ。
凍てた新涼、ポインセチアの色が彩る眺望も、止むことのない季節に流れて、あっと言う間にあの薄紅色が覆うのだろう。
春の息差しは億劫だ。夏はそれにも優る気鬱が私を襲う。
かたちのない後悔が、姫猫のいた束の間の日々を追わせるからだ。
「まづるちゃん」
学生らの群れから昇る倦怠した開放感を、爽やかな従姉妹の笑顔が破った。
就職活動やら創業論文やら単位取得やら、煩瑣な杞憂を負う同級生らに混じっていた私にとって、校門前にいた唯子ちゃんはさしずめ楽園から抜け出してきた小鳥だ。
大抵結ってある黒髪は、珍しく風に靡かせてある。唯子ちゃんらしい優しい身体の曲線は、アイボリーのショートコートとサーモンピンクのフレアスカートがいっそう柔らかに見せていた。
「来てくれて有り難う」
「学校お疲れ様、行こっか」
電柱の影に隠れてキスを交わして、指を絡めた。
街は、クリスマスソングが競うように鳴っていた。どこにでもいる恋人達を気取って私達が向かったのは、旅行会社だ。