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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと
「まづるちゃんと旅行なんて初めてね」
「うん。唯子ちゃんもお正月サボりたかったの、知らなかったし。彼と一緒にいたいだろうなって。それに三井田家のあるじが新年の宴席にいなかったら、問題じゃない。嫌味言われるよ」
「まづるちゃんこそ、くれぐれも嘘がバレないようにね。貴女、社交クラブの会員でもないんだから。万が一見つかったら厄介だわ、私だって親友の仕事を手伝うことにしてあるのに。行き先、国内だとリスク高いわよ」
「じゃあ海外にしようよ。誰にも見つからない、アメリカとか行ってみたいな」
清潔感溢れる店内は、しかつめらしくスーツを着込んだ係達が受付テーブルに控えており、その前方のワゴンには、浮かれたカラフルなチラシがところ狭しと差してある。
私はアメリカ行きのパンフレットをピックアップして、ツアーの詳細に目を通してゆく。
冬休み、私と唯子ちゃんは新年恒例の親族集結を免れるためだけに、二週間日本を離れる計画を立てていた。
私は元会長のみゆきちゃんの助けを借りて、社交クラブのメンバー達を世話するという口実で、唯子ちゃんは前述通りだ。
家同士の縁結びにまつわる話に、一年の経済活動実績報告、年寄りによる若年者らへの喝入れ、羨望や嫉妬を消化するための噂話──…親族達の吝嗇な話題は、お父様が家長になってからも、私達を辟易させ、時には攻撃していた。