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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと



「不幸には、なりたくない」

「…………」

「男は問題外。けど、女とだって、結婚なんかしたくない。それが家のためにならなくたって、可哀想な子だって誤解されたままで良い。お父さんの跡も継がないし、私は私の生き甲斐を見つける」


 相容れない女と男。両者の共存こそ自然界の欠陥だ。

 いつだったか、お父さんは私の初恋を嘲笑った。幼かった時分の私は、女が女に恋することに関する世間の誤謬を知らないでいた。私は無邪気に好意を覚えた女の名前を口にして、お父さんに、思い出すのもおぞましいような諧謔を見舞われたのだ。


 愛する人とパートナーと呼び合う、唯子ちゃん。愛して、一緒になって、憎み合うようになったお母さんとお父さん。

 私にしてみれば、彼女らは固定概念に洗脳されて、男という、彼女自身を不幸に貶める生き物を重んじている。姫猫の実妹だったきよらさんのように、人間は、荊の道を選びたがる動物なのか。



 幸福など、なくした。それでも不幸にはなっていない。



「唯子ちゃんがいてくれれば、私は満足」

「まづるちゃん……」

「私を助けて。離さないで」





 誰の理解もいらない。私も彼らを理解出来ないのだから、彼らにだけ理解を求めるのは道理に反する。



 適当な女と遊びながら、唯子ちゃんを最愛の人からも奪うことなく、彼女に安らぎを得ていたい。



 だから、私は彼らの攻撃からも逃げる。…………
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