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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと



 ナイトクラブを出た私は、お兄様と語らっていた。


 運転席でハンドルを握る丸井の斜め前方から、セレスティーン・ミーアの原画展の予告が流れ出した。



 かの画家は、律子がいつか話していたほどの批判は集めていない。

 キャスター達は、性器という、人間の顔ほどに千般ある部位を精巧な立体画に写すセレスティーンの技術を称え、裸婦像をあえてデコラティブに仕上げる彼女の作風について、摯実に議論を重ねている。



「こっちの生活には慣れたか?」

「日本よりずっと居心地が良いわ。でも、佳子さんが私のカムフラージュだなんて、お兄様の目は劣ったのかしら。私、あんなに鼻は低くなくてよ。目だってもっと潤っているし、血色も良い。スタイルだって、随分違うわ」

「可愛い娘じゃないか?……ったく、紀子の時は、オレをあれだけけなして、お前はさっさとバツイチか。兄様に面倒かけさせるなよ。お前の戸籍操作だって、簡単じゃないんだ。どうする?白紙にしとくか?」

「──……。どっちでも良いわ」

「だろうな」



 律子は死んだ。

 もとより、私に配偶者などいなかった。お兄様にもいない。



 人間は、個体の他のものにはなれない。戸籍も指輪も、明日にでも法が変われば無効になる。
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