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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと
* * * * * * *
お兄様と紹也さん、そしてお兄様と私の結婚式は、車で五十分ほど走った先のリゾート地で始まった。
「指輪の円は終わりないもののしるしです。貴金属には久遠の価値がある……。貴方がたの愛もそうありますよう、遊さん、貴方は紹也さんにこの指輪を与えますか」
「おう!」
白いタキシード姿のお兄様が、同じく白いタキシードを着た紹也さんの片手をとった。
同じ新郎の装束でも、仕様は違う。お兄様のそれはジャケットがロカイユ柄のジャガードで仕立ててあって、蝶ネクタイは金糸ですずらんが刺繍してある。一方、紹也さんのシャツは遠目からでは輝度に優れた白に見えるくらい仄かなパープルがかかっており、袖から覗いたレースの影が、今まさに薬指にプラチナを嵌められようとしている左手の甲に淡い装飾を落としていた。
お兄様が作業を終えると、紹也さんは緩んだ顔で彼を見上げた。
幸福と呼べるものがあるとする。さすれば、それを享受した人間には、今の紹也さんのような気色が現れるのかも知れない。
お兄様は移り気で、今は亡きも同然のお父様と血は争えない、不可視の愛など握っている価値も見出さないのに。
「紹也さん、貴方も遊さんにこの指輪を与えますか」
「はい、与えます」
愛してる、と、掠れたテノールがお兄様の耳殻に触れた。
私達の後方には、多くの列席者らがいた。なかんずくおおらかな国民性の若者達は、必要以上にお兄様の片手を撫でて指輪を嵌める紹也さんの振る舞いを、囃し立てて祝福した。