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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと
所詮はかたちばかりの契約だ。
だのにささめき、抱擁を交わすお兄様と紹也さんの雰囲気に当たって、私の頭の片隅を、血迷ったような空想が掠める。
まづる──……。
もしもこの場にまづるがいたなら、もしも四人でこの茶番を披露していたなら、私はもっと浮かれていたか。
嘘で構わない、嘘であった方が良い。
ただ、結婚を幸福に結びつける蒙昧家達の欲求を満たすサービスを、あの美しくたわやかな友人と共に振る舞えていたら、けだし私は破格の快楽に濡れた。ウエディングドレスの中は洪水、誓いの言葉に指輪の交換、それらが彼女とであれば。…………
「お待たせ致しました、姫猫さん。指輪の円は終わりないもののしるしです。そして貴金属には久遠の価値がある。貴女がたの愛もそうありますよう、遊さん、…………」
そこで神父の言葉が止まった。
金髪碧眼の独善家、私はさしずめジョークの化身の急な絶句で我に返った。
神父がお兄様に耳打ちしていた。
客席がしめやかにざわめき出す。
「指輪はねぇよ」
「オオ、マイゴッド!」
「姫猫にはこれ」
シュッ…………
途端に強烈な匂いが私を襲った。
薔薇とムスク、遠くにミントのアイスクリームのフレーバーがちらつく匂いは、お兄様が愛用しているオードトワレだ。