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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと

* * * * * * *

「あっあん!」


 にわかに濡れた悲鳴が聞こえた。

 少女らを全員受け取って、私達が彼女らの首輪のリードを引いて店先へ向かっていた時のことだ。出どころは、おそらく近くのボックス席だ。



 私達はロベルトの計画をより華やかに盛り上げるべく、少女全員を借り入れた。

 お兄様はそのために、はした金額、だが庶民にしては破格の謝礼をオーナーに握らせたのだ。一人でも若い女が店に残っていたとする。私達はオーナーを詐欺罪で訴えねばならない。



「丸井。女の声がするわ」

「あぁ?」

「お兄様。あちらのソファからいやらしい声がしたの。私は見てくるから、お兄様はこのリードを持っていて」



 私の足どりは軽い。

 こうも高揚が私を急かしているのに、オーナーの過失の所為で、予定が少し遅れたではないか。





「どなたなの、そこにいるのは──……」


 私は死角に踏み込むや、自分の目を疑った。


 ここは無辺の海の彼方の異国だ。故郷には二度と戻れない。そして、私は二度と、身体の奥から顫動するくらいの享楽にはまみえられない。

 だのに私は、故郷に迷い込んでいた。

 それは一瞬の出来事だった。ただ一秒、この死角に抜け出ただけの一瞬で、ひとときの娯楽、吝嗇な人間が私と同じ境遇に引きずり落ちる過程を嘲笑って夜を過ごすだけのはずだった私は、正体不明の永遠を見た。


「っっ…………」

「きてぃ、……」



 私は、思考を失っていた。

 脳天を殴られたように白く冷たい雲に飲まれ、それとは真逆のあたたかな気体に満たされてゆく。



 ソファにいたのはまづるだ。それから写真で見せられたことがある、見井田唯子さんという彼女の恋人もとい従姉妹も一緒だ。


 本物だ。
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