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淫徳のスゝメ
第6章 私が見た海の向こうの嘲笑のこと
「まづる……?」
「姫猫!」
まづるは衣服を整えて、私がいなくなってからの故郷について話し始めた。
有本さんは新たな愛人に熱を上げて、国民の撲滅は疎か、仏野に対する怒りも今のところ行動に移したことがないという。そして、お兄様は私の身を案じてまづるにも居場所を教えなかった、だが二人は時々会って、私を話題にしていたらしい。まづるは、私が故郷を追い出されてから、彼女も稜の占術を警戒して一人では出歩かなくなっていた。
それらの話は簡潔ながら、私がこの二年半案じていたあらゆることを紐解いた。
「姫猫、会いたかったよ。最後に会った日、あれが最後になるなんて想像もしていなかった。有本さんからメールがあった日、何で一緒に帰らなかったんだろうって、何で止めなかったんだろうって、姫猫…………助けられなくてごめんね。貴女ほど親しくなれた人はいなかったのに」
「ううん、覚えていてくれただけで嬉しい。有り難う。私、も……。田舎に飛ばされたり、こんな見ず知らずの土地に来たり、すごく寂しかったわ。まづるに会いたかった。話したかった。まづるとなら何もしないで過ごしたって楽しかったのに、私一人じゃ、一生分を過ごしたみたいに長かった」
私の醜聞は惨かったろう。
お兄様が言い振らさなくても、有本さんが仏野の堕落を吹聴して回っていたに違いない。
まづるは過不及ない家の生まれだ、社交界からいきなり姿を消したはぐれ者など、他人と割り切っても仕方なかった。
初めて友人と呼んだ彼女。ひとときでも、親友と呼んだ彼女。
私は、何よりまづるの記憶を離れようことに苦艱していた。