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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと


 二つの戸籍が、私を繋いでいる。


 律子と揃いの結婚指輪は、物置部屋の奥深くに封じてある。銀屑として売却するには低質だ。さりとて捨ててしまっては、仮にも私をパートナーと呼んだ律子の善意が浮かばれない。



 生活のための婚姻も、娯楽のための婚姻も、結局のところ私に何も与えなかった。奪わなかった。

 愛は人を変える、そのようなフレーズは根拠なく、映画やドラマをただ美化する稚拙な迷言だったのだ。



 ただしお兄様との結婚は、私自身に変化をもたらさなかった代わりに、私の欲望をより確実に満たせる材料にはなっていた。



「ぁんっ……はぁぁ……っ、あん!あっ……ああ……っっ」

 肌に染み透るような妖しい花の芳香に抱かれて、私は寝台に裸体を投げ出していた。

 乳房をまづるの手のひらが遊ぶ。もう一方の乳房の裏側、女の丘陵とあばらを覆った肉叢の僅かな隙間を、まづるの唇が啄む。


 私はまづると三井田さんの宿泊しているホテルにいた。三井田さんは出掛けたあとだ。

 一ヶ月の三分の二は滞在出来るだけの荷物が運び込まれているだけあって、部屋は、スイートルームにしては所帯染みた感じがある。もっとも私は先日の初夜同様、ロサンゼルスのホテルを満喫している場合ではない。
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