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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと
かくて私達は、風俗店で再会してから暇を見つけては会っていた。
共通の娯楽に興じる他にも思い出話に花を咲かせる私達は、無論、現在や近い将来も話題にする。
いつか、まづるは独身の女に興味がないと話していた。私がそれを持ち出すと、彼女は笑った。確かに姫猫は磨きがかかった、だがそれは既婚者になった所以ではない──…貴女は昔から魅力的だ、と。
「結婚して良かったわ」
「またその話?それか私の告白が聞きたくて、分かっていて意地悪言うの?」
後方から私を封じたまづるの息が、耳の裏をくすぐった。
私は柔らかな弾力の丘陵に背中を預けて、腹に重なる二つの手に、手のひらを置く。
「結婚、しよっか」
「え……?」
まづるの口調は、今夜ナイトクラブへでも行かないかと誘っている時と同じくらい軽かった。
「──……」
「姫猫」
私をとりこめていた抱擁が、ほどけていった。
仏野の屋敷を思い出す、だがそれよりは遥かに異国情緒の強い部屋を、人形のような女がひらひらと舞う蝶のごとく歩いてゆく。
まづるがキャビネットから戻ると、私の目交に、小さな炫耀が現れた。
四センチ角ほどの別珍の箱に入ったクリスタル。
それは、婚約指輪を象ったリングだ。
「分かりやすくした方が、良いかなって」
「…………」
「姫猫や遊さんは、そういうごっこ遊びが好きでしょ。本物の方が良かったら、このあと一緒に選びに行こ」
私はリングを拾い上げて、左手薬指に嵌めた。
サイズ調節が可能な銀メッキのそれは、少し縮めてしっくり馴染んだ。大袈裟にカットしてある水晶は、雪解け水でも弾けたように清澄な艶を湛えていながら、ダイヤモンドと似ても似つかない。
幻のように綺麗だ。
私はこの日、リングを外さなかった。まづるの提案を退けて、私が彼女を誘ったのは、結婚式場の下見だ。
そう、私はごっこ遊びが好きだ。
そして、その悪趣味な遊びを最近お兄様達としていた最中、彼女を想っていたばかりである。