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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと

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 私とまづるの婚約を知ると、お兄様は彼の妹(現在は配偶者でもある)が庶民の配偶者になっていたことが明らかになった二ヶ月前にも優って、私を嘲笑った。


 お父様が健在だった時分、私とまづる、そしてお兄様は婚姻制度の有害性について通じ合い、にも関わらずお兄様が誰よりも早く紀子さんというパートナーを迎え入れた。

 あの時、私達は我先にとお兄様を嘲笑ったものだ。

 その遺恨からか、お兄様は私だけでは飽き足らず、今回の件に関しては、まづるにまで小言をぶつける始末だ。その一方で、婚約者との恋人ごっこに浮かれる私に、お兄様はより茶番を愉快にするためのアドバイスを寄越してもいた。


「姫猫。先日オレは、面倒な手順を全部端折った。お前と紹也と式を挙げた時のことだ。ドレスも紀子のお古だったろう?披露宴は、マニュアル通りの日本式だ。正味、日本でももっと面白いことをする。まぁ、神父を辱めたり、お前とコスメを交換したり、結局なかなか楽しめたがな。オレの目的が重婚だったからでもある。一対一が道徳的だ?はんっ、自己満やってろ。…………良いか、姫猫。世間は結婚式に何を求めていると思う?ヤツらは見世物を観たいんだ。そいつを生贄に、同調したいんだ。新婚さん達が綺麗な服を着て、永遠の愛とやらを誓って、新たな門出に意気込む。それをヤツらは見物し、ヤツらの考える幸福とやらが肯定される気分に浸る。そんな行為にどんな意味があるかって?十分すぎるぞ。ヤツらの盲信している法とやらが、若いカップルを一生涯保証するんだ。うわべだけな。姫猫、式は寒いほど甘くしろ。披露宴は派手にいけ。目上のヤツらを気持ち良くさせてやりたいところだが、お前の上に立つ人間はそういないからな。式はいつだ?」

「四月よ。まづるは学校の卒業式があって一端日本に帰るし、私もドレスは新調したいから」

「そうか、ドレスはお兄様が買ってやる。庶民が醜悪にひがむほどの、豪華なオートクチュールにしろ。白はダメだぞ。あれは寒い、オレはもう懲り懲りなんだ」
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