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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと



 人生三度目の結婚を一ヶ月後に控えた私は、パートナーのまづると並んで打ち合わせの席にいた。


 善良なブライダルプランナーは、繊手を熱心に働かせて、進行表を埋めてゆく。私達は、小慣れた彼女の質問に一つ一つ答えて、ブライダルプランナー特有の愛想に声を立てる。


 私の左手薬指には、今日も水晶のリングがきららいていた。

 純質な貴金属、高級な石ばかり身につけていた私の肌に、子供騙しの玩具はどういうわけかしっくり馴染む。だから私は、まづるがおりふし思い出しては新調を勧めても、頑なに拒否していた。



「プロフィール紹介はいかがされますか」

「そんなのまで晒すの?就活じゃあるまいし」

「大丈夫よ、まづる。伏せても、冗談と分かる範囲でなら捏造でも構わないから。そうねぇ、私は、貴女に紹介してもらいたいわ。私はまづるについて話すから」



 律子との披露宴が、自ずと思い起こされる。

 あの時は、身分を隠蔽していた所以、苗字は丸井、経歴まで白紙で提出したものだ。司会者は私達について一文仕上げるのに、さぞ苦労したことだろう。



「私達の出逢いはお父様同士が仲良かったからなのよ。学校も偶然同じになって、五ヶ月ほどべったりだったわ。それから私が引っ越して、二年半くらい離れ離れ。またここで、昨年末に再会したの」

「運命的ですね。交際はいつから?」

「ふふ、いつ付き合ったのかしらね」

「姫猫のことは、最初から素敵だなって思ってたよ」

「そうね。私もまづるにドキドキするのは、クッキーに夢中になっているところを覗き見られていたあの時からだわ」

「覗き見なんて酷い。気を遣って声をかけられなかったんだって、言ったでしょ」

 まづるが私の片手首を引き寄せて、額を弾いた。

 私は仕返しと言わんばかりに彼女に身体をすりつけて、綿レースがミルフィーユのように重なる丸襟に流れたその巻き毛に指を絡める。


「本当に仲の良いこと。さ、続きは帰ったあとにして下さい。ケーキカットはどうされますか?まずこのファーストバイトというのが通常の、食べさせ合いをしていただくもの。そしてラストバイトは親御さんから花嫁様、花婿様に食べさせてもらうタイプです。最後にサンクスバイトというものが──…」…………
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