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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと





 打ち合わせがお開きになると、夜のネオンが霄漢をぼかしていた。

 人混みを滑り抜けた私達は路地裏に入り、耐えかねたようにキスを交わす。


「──……」


 自動販売機を二台置けば塞がってしまうほどの小路は、すぐ真横の雑踏から認識されてもいまい。


「…………。ん、……」


 キスが離れると、淡い明滅を含んだ釁隙の向こう、すぐ真ん前に人形のような顔があった。

 いっそ生気も疑ぐるほどに端正とれた顔立ちに、飴細工のようなロイヤルミルクティー色の巻き毛──…フリルにレース、リボンがふんだんに使ってある春先のサーモンピンクのワンピースにベージュのデニムジャケットは、たわやかな肢体を隙なく隠しておきながら、余計にもったいつかせている。


「はぁ、……」

「姫猫」

 まづるの指が、私の頬を確かめていった。


「ずっと、友達でいて」


「当たり前じゃない」

「姫猫のこと、独占したいよ。貴女しか見えない」

「うん、私も、ここでヤッちゃいたいくらい」


 私はまづるの片手を握って、その薬指に唇で触れた。

 一ヶ月後には、ここに私のプラチナを嵌める。

 あんな貴金属にも奪わせたくない、まづるの温度を、私のキスに吸い上げる。


 ちゅ、ちゅ…………


「大好き」


 大好き。大好き。大好き。


 ささめきながら、私はまづるに口づける。

 親友である以外の何でもない、このささめきは、私が私を呪縛するための戒めだ。


 愛してはいけない。愛は、人間を堕落させる。破滅させる。


 欲してはいけない。





 お父様が私に教えてくれたことだ。
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