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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと
エントラスホールに酒が回りかかる頃、私とまづるは退出した。
手をとり合って、まるで心底久遠を盲信しているパートナーを気取った私達は、浮かれた宴席を遠ざかってもサービス精神を振り撒く。
公園の散歩客達は二人の花嫁に注目し、歓声を上げ、時々カメラを構えたがった。
「見てママ!花嫁さん!」
「綺麗ねぇ。今日結婚式されていたの……。ふふ、お姉さん達も美人ね」
「お嬢さん達、お幸せに。ほれ、持ち合わせで悪いねぇ、私達からのお祝いだよ」
「ここの会場、ビアンに人気よね。いいえ、そもそもこれからの時代は男との結婚がマイナーになるんでしょう。仲良くね」
「有り難う」
鍛錬された肉体に精悍な顔かたち、ひと昔前の日本人が西洋コンプレックスとやらをいだいたのも頷ける黒髪の美女は、私達に片目を瞑ると、スレンダーなブロンド美人の肩を抱いて立ち去った。私達の結婚はいつ、と、カモシカのような女が恋人にじゃれている。
「姫猫でも、そういうの見て笑うんだね」
「笑ってる?」
「さっきの女の子にも、すごく可愛くサービスしてた」
「…………」
私は、老夫婦が押しつけていった花冠を見澄ます。
名前も知らない白い花で編まれたそれは、所どころにピンク色が混じっており、さっき私達にいとけない好奇心を向けた少女であればさぞはしゃいだろうと空想に耽る。
「…………戻れないんだ」
「ん?」
「何でもないわ」
食傷するほどの甘い儀式に、庶民が見惚れるウェディングドレス──…お兄様の期待に添っても、私に彼らを見下そうという気が起きない。