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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと





 控え室に至ると、シャンパンピンクの尾鰭をきららかせた人魚が私を迎えた。


 人魚ではない、ドレスだ。


 まるで薄紅色を連れた夕まぐれの海のさざなみ、薄いシルクに幾重ものスパークオーガンジーを重ねたマーメイドラインのそれは、微かにピンクがかったオフホワイトのフランスレースがふんだんにあしらってあって、ベアトップは絶妙なカラーニュアンスの小さなリボンで縁どってある。細部に至るまで精巧で、どこまでも華美でありながら、見るからに私の体型が活きる逸品だ。


「待って……まづる、これって……」

「姫猫の贔屓のデザイナーさんのやつ」

「うそ!」



 普段着であれドレスであれ、どれも同じとこだわらない人間もいる。

 それでも私は一目で分かった。

 お洒落や化粧を覚えるようになった思春期前から、一日もここの洋服に袖を通さなかったことはない。お父様の庇護下にいた時分こそ、三度も外に着て出てしまえば処分していた。今になって思えば慙愧する。たとえ着られなくなっても、手放すべきではなかったと。


 私は、私の肌に馴染むこの世界観を背負った洋服が好きだ。



「有り難う。吃驚したわ……有り難う、大事に、する……」

「良かった、気に入ってもらえて」


 気に入らないはずがない。


「気づくなんて、さすが姫猫。伊達に常連さんじゃないね」


 まづるがシャンパンピンクのドレスを下ろして、私にあてがった。


 いつにも増して華やかな化粧が、臈たけた顔をいつにも増して引き立てていた。



 吸い込まれそうに清冽な双眸、私に微笑む親友は、怖いほど美しい。
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