この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと
控え室に至ると、シャンパンピンクの尾鰭をきららかせた人魚が私を迎えた。
人魚ではない、ドレスだ。
まるで薄紅色を連れた夕まぐれの海のさざなみ、薄いシルクに幾重ものスパークオーガンジーを重ねたマーメイドラインのそれは、微かにピンクがかったオフホワイトのフランスレースがふんだんにあしらってあって、ベアトップは絶妙なカラーニュアンスの小さなリボンで縁どってある。細部に至るまで精巧で、どこまでも華美でありながら、見るからに私の体型が活きる逸品だ。
「待って……まづる、これって……」
「姫猫の贔屓のデザイナーさんのやつ」
「うそ!」
普段着であれドレスであれ、どれも同じとこだわらない人間もいる。
それでも私は一目で分かった。
お洒落や化粧を覚えるようになった思春期前から、一日もここの洋服に袖を通さなかったことはない。お父様の庇護下にいた時分こそ、三度も外に着て出てしまえば処分していた。今になって思えば慙愧する。たとえ着られなくなっても、手放すべきではなかったと。
私は、私の肌に馴染むこの世界観を背負った洋服が好きだ。
「有り難う。吃驚したわ……有り難う、大事に、する……」
「良かった、気に入ってもらえて」
気に入らないはずがない。
「気づくなんて、さすが姫猫。伊達に常連さんじゃないね」
まづるがシャンパンピンクのドレスを下ろして、私にあてがった。
いつにも増して華やかな化粧が、臈たけた顔をいつにも増して引き立てていた。
吸い込まれそうに清冽な双眸、私に微笑む親友は、怖いほど美しい。