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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと
お父様が怖かった。お父様だけではない、お母様もきよらも、有本さんや蓮見先生も、私を征服していた脅威だ。
まづるがお父様を破滅へ追いやったのは、けだし私の臆病な深奥に気付いたからだ。気付いていながら指摘はしないで、ただ不安因子だけを排除した。
彼女がいなければ、私は今も彼らの支配下で小さくなっていただろう。
「直美とはどうしているの?」
「突然だね。別れてきた、この間、地元に帰った時」
「そう。あんな庶民をこっちに遊びに来させるのも無理があるものね。でも私、昔まづるとあの母娘で遊んだ時は楽しかったわ。今日も楽しみましょう、私、日本のお祭りも花火以外は経験がないの」
「さすがお嬢様。じゃ、親に見放されるほどの不良が手とり足とり教えてあげる」
結局、丸井は私達に張りついていた。
途中、私達はポリーやその友人らに鉢合わせた。彼女らは私達は今日のくじ引きや輪投げの引換券や食券を譲渡して、まるで善良な従業員のように高齢者らと馴れ合っていた。
「施設のポテトも悪くないわね。パンケーキは、バターとチキンが控えめかしら」
「対象が高齢者だからじゃないかな。野菜も細かく刻んであるし、喉を詰まらせちゃ問題になるでしょ」
「そうなの。……ところで、貴女達相変わらずよね」
私達はパラソルの陰でランチをとった。
丸井が車に戻らないのでは、店を探させる人手もない。粗末なポテトやパンケーキは思いの他絶品で、すっかり機嫌を良くした私はピンクレモネードの二杯目を所望した。
まづるは紅茶、丸井はビール。
前者はともかく、勤務中にあるじの前でアルコールを嗜む部下も、昔の仏野の邸宅であれば命は不要と判断して良かったものだ。
「たまに訊ねられるけれど、下戸じゃないよ」
「私は飲んでも酔いませんから、ご心配には及びません」