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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと

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 美園竜司は、あれから変わらず私を養子として待遇していた。


 名の知れた、設備も充実した福祉施設で、私は管理職に打ち込む傍ら、現場にも積極的に関わった。


 私にとって、献身、至心は、お母様との最後の絆だ。

 汚れた肉体は清められない。金銭でやりとりされた私自身を浄化することは不可能でも、贖罪のチャンスはある。


 福祉。

 幸福と、神の恵み、幸い。

 大方このような意味を備える文字通り、私はそれらを必要とする彼らにこそ救われていた。



 追い立てられるようにして仕事に打ち込んでいたにも関わらず、私が送っていたのは甘やかされざるを得ない日々だ。


 お義父様の計らいで、私には数々の男達から求愛があった。


 私は、男はもちろん、私と同じ肉体を持つ女ですら心底信頼していない。今更、恋愛というものを讃えても、私自身が関わろうというつもりになれなかった。

 そうした私が女の幸福を得られたのは、求愛者らに、一風変わった男が混じっていたからだ。


 彼の名前は、会田和紀(あいだかずのり)さんだ。

 和紀さんは、お義父様の部下の息子だ。私と同じ二十歳で経済学部に通っている、国立大学の特待生だ。お義父様が話すには、会田さんもかなりの敏腕らしい。


 私は、お父様と懇ろな関係にある人物達の身内とは、一度だけ会って縁を退けていた。全く無下にするのでは、お父様の顔が潰れる。さりとて交際まで受け入れてしまえば、私の身から出た錆が、彼らに影響をもたらすからだ。


 和紀さんが私の職場にまで押しかけてきた時分から、私の扞禦は綻んだ。

 高齢者なり子供なり、和紀さんは素人ならではの馴れ馴れしさでサービスし、どんなテクニックも使わないで彼らから笑顔を引き出す力があった。私が帰れと言えば居座り、私がおとなしくするよう求めれば、社交性に輪がかかる。
 挙げ句、ある日、彼は大学の講義を抜け出して、施設ののど自慢大会に出場した。その時だ、和紀さんが私をデュエットに誘い、大衆の前で愛の告白をしたのである。
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