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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと
「きよら様。私は、私の意思でここにいます」
「丸井さん……。貴女だって、いつか……」
「姫猫様は変わられました。貴女のお姉様ですよ。大切な人に出逢われて、ご結婚されて、お幸せに暮らされています。遊様もです」
「きよら。彼女、まづるのことは覚えている?私、彼女がいれば何もいらないわ。……というのは言いすぎだけれど、貴女を叱るのも疲れたの」
「うそ……」
「結婚式、呼ばなくてごめんね。きよらさん。貴女も楽しそうにしていて良かっ──…」
「やっぱりまともじゃない!!」
きよらの恫喝は、今度こそ行列にいた老齢者らまで注目させた。
怯えを凌駕した憤怒の目、お母様を彷彿とする清冽な黒曜石は薄紅の台座でぎらついて、忘我の憎悪を滾らせている。今にも涙がこぼれそうで、焼けるように熱い眼差しに顫える。
私の中で、眠っていた何かを閉じ込めていたものに罅が入る。
「お姉様、早良さんはお母様が亡くなった元凶。貴女達三人がお母様を追いつめたの。そもそも、彼女は女の人よ。世界はアダムとイヴで始まった、お姉様達は理に背いている。でも、分かったわ。丸井さんはお姉様達に騙されている。お姉様達の結婚なんて、ままごとだもの。普通なら思春期に見られる一過性の倒錯なのに……。女と女が自己満足な式を挙げたって、法で認められるはずがない。周囲を見れば分かること、おかしいって誰もが思うわ。お兄様はどなたと婚姻されたのかしら。まさかお姉様達だったりして」
「きよら、……」
「いくら恵まれた環境に生まれたからって、成人してもそんなことばかり、情けないわ。私、お姉様に嫌われて良かった。貴女のような恥ずかしい人に姉妹面されなくて、本当に良かった。お姉様、働いたことある?誰かを本気で愛したことある?今は良くても皺寄せは来るわ。お兄様のお仕事がもし破綻したらどうするの?こんな時代だもの、仏野の名誉や財力だって、明日なくなるかも知れない。そんな時、一人で生きていけるの?いつまでも悪ぶって、奇行に走ってばかりいて、もしかして早良さんもお姉様がおかしいことに巻き込んでるんじゃない?」
「っ…………」