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淫徳のスゝメ
第7章 私がつい経験した蜜月のこと


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 生まれて初めて踏みしめた土に、私の胸は昂揚して引き締まり、一方で、肌は不思議と馴染んだ。



 海を越えた異国から、私とまづるは更に海を越えて、一週間の西洋の旅に出ていた。

 開放的な近代都市、ロサンゼルスとはひと味違う。道ゆく人々は人形のような儚なさを備え、それでいてドラマティックな歴史を築いてきただけの気格は独特だ。


 私が日本を離れて半年以上が経つ。

 諸々の感動はとっくに薄れたあとだが、広闊な土地にそれに見合った国民性──…閉鎖的だった故郷になかった類の摯実は、西洋にも健在だった。


 まづるは私の所望に沿って、古城や廃墟、今も機能している城や教会、美術館や公園を案内し、現地に五、六人ほどいる知人を紹介した。私は絵に描いたより美しい眺望にため息をこぼして、文明の産物に胸を顫わせ、まづるの話を傾聴していた。



 永遠を誓ったパートナー同士が旅することを、世間はハネムーンと呼んでいる。

 私達がしていることも、けだしそれに含まれる。

 事実、三日前に空港まで同伴したお兄様は馴染みの揶揄で私達を送り出したし、丸井や紀子さん、紹也さんは、祝福ととれる常套句を口にしていた。



 大学に進学したより少し手前、お父様の顔を立てるために渋々会って、寝室から出た時には既に虜になっていた。私を非現実的なまでに破格の快楽に引きずり込んだ親友と、あの頃は、こうした未来を得るとは、夢にも思っていなかった。



 私が彼女に、こうものめり込むとは思わなかった。
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