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淫徳のスゝメ
第1章 私が淫蕩に耽るまでのこと





「先生」

 ある放課後、私はきよらの担任教師を訪った。

 カトリック系の女子校がいかにも雇用したがる、精力もとうに尽きたような老いぼれ教師だ。

「私の妹が、クラスで過激なちょっかいを受けているそうなんです」

「何と……」

「ですが、きよらを泣かせる彼女達を、先生は咎めないであげて下さい。きよらは昔からおとなしくて、世間を甘く見ているところがあるんです。今の内に、社会がどれだけ厳しく冷酷なものであるかを、彼女達は彼女達なりの愛情で、きよらに教えようとしてくれているだけなのですから」

 私は先生の胸ポケットに、畳んだメモ用紙を差し込んだ。



「おお、そうかそうか。姫猫さんは優しいなぁ。分かった。また何があれば、いつでも話をしに来なさい」

「有り難うございます」


 私は先生に一礼した。


 先生はここに至るまでより幾らか軽い足取りで、職員室へ戻っていった。皺だらけの手が、薄い胸板を飾ったポケットからメモ用紙を引き抜き、くるんであった紙幣を数えていた。
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