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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと


「殺したく……なる、かも……知れません……」


 愛する人の嚮後を絶って自決する。

 独善的な添い遂げでも構わない。お兄様には、さんざん自由を許しているのだ。最後くらい、ひとときでも愛してくれていたことがあったのであれば、彼にも自由を許して欲しい。


 それがロマンチストの言い分だった。


「貴女達は、どう思う?」


 私はハーブティーのお代わりを勧めてきたメイド達に、意見を求めた。


「…………」

「私、は──…」


「いけないことだと思います」


 メイドの一人が口を開いた。

 黒い巻き毛を二つに結った、下働きにしては可憐な化粧をした女だ。

「一途に想い続ける忍耐が持てるなら、その方の幸福を願い続ける忍耐も持てるはずです。その方の盾にこそなっても、殺められません。愛されなくても、お気づきになってさえ、いただけなくても……」


「面白いわ。貴女、気に入った女のためなら命も差し出せるというのね」

「当然ですわ」



 やんわりとはにかむメイドの真意を、私はかねがね気づいている。


 華やかな巻き毛に高級な化粧品、彼女の分不相応な身なりは、けだしまづるに共感してのものだ。

 女が女を好くように、男が男を好くように、そして、私がお兄様を好くように、人間には、稀に親近な存在に執着する傾向がある。それでなくてもこのメイドは、長年仕えたあるじの前に立つ時、必要以上に肩の力が入っている。



 私に、やはりメイドに対する反感も、いつまで経っても芽生えない。
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