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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
* * * * * * *
蓮見さんと枕を交わした事実を姫猫に打ち明けなかったのは、あらゆる方面から思考した結果がもたらす慚愧とやらのためではない。
夕まぐれ、私は夕餉の時間のぎりぎりまで、蓮見さんの私宅にいた。
話をしたいと私を招いた宗教学者の関心は、もっぱら私の可愛い花嫁にあった。
『驚いたわ……。あの子が三度も結婚して、その上集大成の相手が貴女だなんて』
私は他意なかろう知人の探究心を満たしながら、なおざりにも姫猫の名誉のために弁解もした。
彼女が法を用いて他人を所有したがったのは、最初はセックスと人脈のため、二度目と最後は嘲笑のため、娯楽のためだ。
案の定、蓮見さんは彼女特有の無機的な愛想笑いを浮かべて、元教え子を慈しむような感想を述べた。
宗教にも、オカルトにも興味はない。
だが話している内に草臥れてきて、やむなく私も、蓮見さんにいくつか問うた。
ロベルト・ポーターという社会運動家に薬を売ったか。その疑問の答え合わせも、やはり蓮見さんはイエスで応じた。
『効果があったようで良かったわ。あの人達の成功は新聞でも読んだけれど……』
『ニュースはご覧にならないんじゃなかったの?』
『生計のためよ。他にも大きな仕事を頼まれていてね、こっちに来てからは勉強しているの。魔術も、占術も。貴女のお父様が日本で志を達成されたことも知ってるわ、おめでとう』
『……ほとんど関係ない人だよ。今はもう』
『姫猫のことも、そろそろ自由にしてあげたら?』
『何故?』
『三年前の私の占い、覚えているでしょう』
無論、不要な記憶としてこびりついている。
初対面で、蓮見さんは無料と言えど、押し売りまがいに私と姫猫を占った。その時、蓮見さんは姫猫の没落を前知して、私の夭折を予言した。