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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと



『早良さんにお願いがあるの』

 ミルクがたっぷり入った珈琲を喉に流していた私の肩に、羽根同然の重みがかかった。

 蓮見さんの手だった。


 テーブル一つ挟んだ向こうのソファから私の真横、蓮見さんのその移動は音もなかった。


『私を抱いて』

『また押し売り?』

『いいえ。姫猫が夢中になった貴女を、もう一度、二人きりで感じてみたいだけ』



 私が蓮見さんに触れたのは、今日が二度目だ。


 一度目は、論をまたず姫猫と例の商館を訪った夜だった。



 厳格な学者の表層を主張しながら、洋服を脱がせるようにヴェールを暴くと、蓮見さんはさしずめみだりがましい妖魔の素顔を露わにした。

 まとめ髪のピンを外すと、吸いつくように指に絡みつく艶やかな癖毛が流れていった。生気のない、姫猫の透明感とはまた違った白さが覆う肉叢は、どこに触れてもあえかな感度を訴えて、余裕の顫えで私を誘う。

 私は蓮見さんのスーツを乱すと、その唇に吸いついた。
 唾液と吐息の狭間をじゃれて、片手を握って指を撫でながら、正鵠を外れたキスを知性潤う顔面に散りばめた。


 セックスのための友人らしい睦言はなかった。

 私達の間には、嬌音か、互いの性技に対する感想か、姫猫を賛美する口舌だけが交う。


 姫猫を例外に、私は生来、歳上の女性を好んでいた。
 その点、蓮見さんの熟成された妖艶さは、私の劣情を物理的に煽っていった。これで既婚者であれば非の打ちどころもなかったかも知れないが、少女と呼べた時分の姫猫のことを慮ると、やはり私の下で息を荒げる女をいじらしいとは思えなかった。


 蓮見さんは存外に濡れた。

 私は脇差しで貫きでもするように、攻撃的に愛撫した。

 指に食いつくイソギンチャク、蓮見さんの子宮に繋がる快楽の道を探って、こすって、探って、撹拌した。
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