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淫徳のスゝメ
第1章 私が淫蕩に耽るまでのこと


 私は舞さんのジャケットをひときわ盛り上げている丘陵を、手のひらに包んで軽く揺らした。



「きっ、……す……」

「ん?」

「キス…………もう一回、……もっと深いの…………してくれたら……」


 アーモンド型の双眸が、媚びた潤沢を湛えていた。

 舞さんの上下する胸が、コットンを通して私の手のひらの下で僅かに火照り、すじりもじりする脚が、私の脚にすり寄ってくる。

 私の左手と舞さんの右手。双方は、まるであるじの意図しないところで意志を持ち、じゃれ合っていた。


「ん……」

「──……」


 私は一回りも歳上の女の唇を割り、私よりも十二年分多くの口舌を送り出してきた言語の泉を味わってゆく。努めて舌の力は抜いて、壊れ物を扱うように緩慢に、肉厚の花びらを啄ばみながら、歯列や小帯、歯肉、口蓋に至り、味覚を得る生き物を捕まえる。


「あぅ……はっ……う……」

「んっ……んん……」


 私は舞さんの舌を貪りながら、小悪魔のような乳房を暴いた。

 乳首を皺だらけになるまでこすって、腹をさすって、私は私自身の乳房を布越しに押しつけながら、舞さんのティーゾーンに指を進める。


「んっ!ん!あゔっ」


 ぴくん、ぴくんっ…………


 陸に打ち上げられた魚のごとく女体が、私の重心に敷かれていた。



 私は舞さんを知り尽くしていた。私がセックスフレンドと呼ぶ女達は、今のところ三人のみだが、舞さんは特別に可愛らしい。

 実のところ、私は舞さんと行うような情事が不得手だ。

 むず痒く、専らの安らぎだけを楽しみに出来るようなセックス。

 痣が浮かぶまで殴りつけられもしなければ、子宮の破損を鬼胎させる事態も招かない。


 それでも、舞さんは舞さんというだけで価値がある。


 県知事という県内トップの権力を誇る男の右腕と、党首にして次期首相候補という、国家権力者の娘。

 治世に親しい私達が、その治世に敷かれる国民達の偏見すること──…不実を犯す。


 この事実を意識する時、私は酷く打ち顫えるのだ。
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