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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
「まづるを愛しているんでしょう?」
ようやっと沈黙を断った稜は、私の腸(はらわた)を僅かに煮やした。
「だから言いづらいのよ。姫猫のために、私は話さなくてはならない。だけど貴女の目先の幸福を考えると、こんな残酷なこと……」
「いい加減にして頂戴。目先の幸福?それでは遠い将来の幸福を考えた場合、稜が私のためになることをもったいぶっている風じゃない」
「ええ、その通りよ」
稜は、それから途切れ途切れに話し始めた。
苦虫を噛み潰した塩梅の顔色は、本当に私が恋だの愛だのにうつつを抜かしているととり違えている所以か、それとも彼女の自己演出か。
「それは、どこまで貴女の憶測なの?」
稜の憂慮をひと渡り聞き終えた私の第一声は、微かに掠れた。
「憶測ではないわ、伊達に教職員だったわけじゃない、私は人間を見る目はある。一昨日、まづると話して確信したの。彼女が貴女との結婚を望んだのは、国家と裏社会、両方を意のままに動かす仏野の後ろ盾を得るためだった。そして姫猫、貴女の莫大な財産よ。……何故って、顔ね。まづるは、今でこそ内閣にのし上がった父親を持って、ぬくぬくとした環境にいるわ。だけど私の占術では、彼にまつわる不穏な噂は全て事実。いずれ地位を引きずり落とされる、下手をすれば汚職した人間の身内として、世間に白い目を向けられることになる。それでなくても、このところは父娘すっかり不仲だそうじゃない。彼女の没落は目に見えている」
「それは、私も同じこと。お父様なんて、表向きお母様を殺した犯罪者。財産だって、ほとんどお兄様が所有しているし……」
「不都合が生じた時は、遊さんを陥れれば良いだけ。お父様の時のようにね。私も協力してあげる」
「──……」