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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
稜は続けた。
三年前、占術がまづるをおびやかしたのは、彼女に恨みを持つ女の影だったという。
両親の不和を目に焼きつけながら、男女の婚姻という悪徳が美化される、否、義務づけられるような環境下にいた。その反動から、まづるは舞さんとの不倫を始めて、配偶者を持つ女の戸籍を嘲笑するのと同時に、彼女達を憐れみから愛するようになっていった。彼女らを愛せば愛するほど、性別の壁に隔てられた女と男のみならず、女と女の愛さえ猜疑する。
「人間が愛を賛美するのは、愛が賛美されているから。私は一昨日、まづるに気付かれないよう彼女の命運を改めて読んだ。彼女は、姫猫より脆弱ね。ないものねだりに囚われている、存在しない愛なんていうものをまだ求めて、存在しないなら壊したいとまで考えている。そしてどのみち壊すものなら、利益も得るつもりなんでしょうね。姫猫がまづるに懐いている内に、彼女は、貴女の命も財産も、仏野の権限も奪うつもりよ」
「…………」
「貴女に、三年前のような思いは二度として欲しくない。させない。私の言葉を信じて。姫猫。貴女は貴女の地位や名誉を守っていれば、友人一人諦めたって、望めば何でも手に入る」
稜の訴えは切実だ。その塩梅は、彼女が私に禁じるものが、彼女自身に溢れ返っているほどである。
まづるは、稜から毒薬を買い入れたという。
稜の話が事実であれば、私は一週間以内にそれを盛られる。