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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと

* * * * * * *


 毒薬は、存外にあっさり見付かった。


 私がまづると共用している寝室の隅のドレッサー、効果のほどは皆無に等しい装飾性に長けただけのコスメメーカーのボディミルクや美容液に紛れて、遮光ガラスの小瓶はあった。


 警戒の微塵も感じられない置き方は、私達がそれだけの信頼とやらに惑わされてきた結果か。それとも、この類の薬を所持しているのは私も同じだ、まづるは私が不審をいだかないとでもたかをくくっているだけか。


 瓶には錠が施してある。

 その成分は甄別しかねるが、少なくとも私に耽溺している宗教学者の話したことだ、これは私を死に至らしめるので間違いないなかろう。



「帰ってたんだ」


 深更に沈んだ晦冥を、扉の音がやわらげた。

 ほぼ同時に私の耳をくすぐった声のあるじが、非現実的なまでに嬋娟な姿を現した。


 ぼけた白い蛍光灯にほの見えるのは、いつにも増して潤沢な肌だ。

 思わず近くで嗅ぎたくなる、あえかな花の匂いがする。


「私も、もう一度シャワーを浴びてこようかしら」

「メイドは寝たよ」

「シャワーくらい自分で出来るわ。さっきだって、稜の家で──…」

「姫猫の匂いが消えちゃうじゃない」


 絨毯を踏む気配まで悩ましい。


 まづるは私を片手にかけるや、瞬く間に不可視の纏縛にとりこめた。私の背を胸に抱いて、彼女の他に見えなくさせる。


 通った鼻梁がわざとらしく髪に近づく。

 肩に触れていただけのまづるの手が、私の腕を滑っていった。片手を捕らえて、私の太ももをまさぐり出す。
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