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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
* * * * * * *
私はまづるが眠ったことを確認すると、私室に戻った。
稀少で、そのくせ壊れる時はやにわな平凡。
別段多くを望まなかった日常に一瞬にしてとどめを刺せるだけのナイフを、私は常備している。
凶器は、荷物に紛れて光っていた。昨日研いだばかりのようだ。
当然だ。私はこれを護身用に持っていただけで、女達をブーケに変えていたのはいつもメイドだ。
まづるを味わいたい、そうした空想に濡れたことはある。
その哲学も生まれ育ちも、私に引けをとらない女。仏野が出入りしていたパーティーを巡遊しても、まづるほどの条件が揃った女には巡り逢えまい。彼女をひと思いに消耗すれば、その快楽は大波同様、きっとあとは私が引き潮に劣情を迷わせねばならなくなっていた。彼女の指を味わえなくなる。
全てが寝静まった深更は、不気味だ。
私を底なしの恍惚に導きながら、その先は無人だ。
破壊願望、恍惚、恐怖、安堵──…混濁した激情が、さっきのセックスから湧いた熱とぶつかり合って、私の中を蠢いていた。
二つの愛液の匂いがしみた寝室は、扉が僅かに開いていた。
出た時、確かにノブを回したのにだ。私は、閉めきってもいなかったものを、閉めきったと思い違いをするくらいには、平静をなくしているのだろう。