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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
「まづる……」
ドールの容姿に相応しい、可憐な寝間着でめかし込んだ配偶者の髪に指をうずめる。
まづるの側に腰を下ろして、私はしとりを含んだ柔らかな頰、官能的なメゾの出どころである白い喉、絶望的で脆弱で、そのくせこの私を破滅に導けるだけの心魂を覆った胸を、乳房を、なぞってゆく。
室内は暗い。
だが、灯りを増やせば私はまた私を失う。
まづるの姿がはっかり見えれば、手許が鈍って余計に彼女を苦しめる。
「好きよ……」
ちゅ…………
「好き……。大好き……。だから私のものになって……」
ちゅ、ちゅぅぅ…………
まづるに覆い被さって、乳房に乳房を押しつけて、唇に舌をこじ入れた。
彼女の唾液をしゃぶりながら、その歯列を確かめながら、私はあたたかな手首を求める。
すっ…………
と、ナイフを引いた。
音が立ったか、無音か、独善的なキスにとろかされていた私の脳は、手許にまで神経を澄ませられない。少なくとも肉を切るくらいの音は立っていたかも知れない。刃は、それだけ食い込んでいた。
とろ…………
焔を想起する熱が、私の指を静かに襲った。
がりっ……ざく……がりり……ぬちゃ…………
左手首に続いて右手首、右手首に続いて心臓、私は、次々と肉叢に白刃を突き立てては、頭を貫かれる錯覚におびやかされるようにして、柄を引いた。