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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと

* * * * * * *


 果てないようだった夜が明けた。


 私をやんわり支えて、自立させていた不可視の鎖がほどけても、私は自ら寝台を抜けてメイドを呼んで、洋服を選んで支度をこなした。



 不羈を怖れる連中は、所詮、その程度の命運のもとにいるだけなのだ。

 傲慢な規則に従って、盲目な偏見に振り回されて、周囲の顔色におびやかされる。そして自失、挙げ句は理性もなくした暴徒(けもの)になるのだ。



 私がちさとや実里に久しい種類の作業を言いつけると、沈痛な面持ちのメイド達が割り込んできて、その役目を申し出た。

 当てつけがましい顔触れは、一人、欠けていた。三日前、私と紹也さんの雑談で給仕をしていたメイドの一人だ。


 早良の一人娘が消息を絶ったところで、私に疑惑がかかる可能性は低い。それでなくてもメイド達が亡きあるじに関して余計なことを触れ回ったところで、その頃には真相を突きつめたがる国家機関には、仏野の圧力がかかっていよう。





「よくやったわ、姫猫。それでこそ私の可愛い生徒……。敬うべきお嬢様よ」


 謝礼がてら訪問して、ことの終始を報告した私を、稜は大仰に褒め称えた。

 同じ血の通ったお母様はあれだけ蔑んで、虐げて、もはや全否定していたというのに、その娘には滅法慇懃なものである。



「時に、姫猫」

 ティーカップの中身が半分も減らない内に、稜の口調が切り替わった。

 知性溢れる面差しは、昨日と同様、計算的な憂いを添えていた。

「貴女に謝らなければならないことがあるの」
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