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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
私はセックスを離れた場所での謝罪が嫌いだ。なかんずく親しい人物の慚愧は不快を得る。
だが、稜には反感を覚えなかった。
逡巡も、後ろ暗さも、稜のそれらは閨房で楽しむスパイス同様、あくまで話の味付けだからだろう。
何もかも変わってゆくくせに、何一つ変わらなかった。
めくるめく世界の中で、まづるとの嚮後を断ち切っても、私の景色は同じだ。肉体も、あれだけ欲した快楽を自ら遠ざけたあとでも濡れたがる本能とは連結していて、こうしてまづるを数多のブーケ達と同じにしたことを報告したばかりの今でも、目の前にある全く別の女の指に、私の深奥は舌舐めずりしている。
幸福など存在しない。変わらないもの、絶対的なものなどない。
壊れていった。奪われていった。壊されて、奪って、奪われて、壊していった。
「今更、何を聞いても驚かないわ」
「姫猫は、私を処刑したがるかも」
「私はそんな身分じゃない」
そう、私は大それた人間ではない。
されど大それた人間でいなくては、私は私のかたちを失う。
私は仏野を背負っていた。仏野聖司の正妻の娘で、お兄様より正統な血統、きよらより優秀な長女である義務があった。
お母様に軽蔑されても、実妹の非難を受けても、私は強くなくてはいけなかった。
「姫猫」
稜の声は切実だ。
それは、私の厭う恋愛映画やドラマの主人公を聯想した。
「まづるが姫猫の命を狙っていたというのは、私の嘘」
「え……?」
「私が彼女に持たせたのは、催淫剤よ」