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淫徳のスゝメ
第8章 私を競った愛達のこと
稜は、それから物語でも読み聞かせる調子で話し始めた。
まづると再会してここに招いた数日前、彼女の左手薬指に嵌まった炫耀の意味を知って、深い後悔に悩まされたこと。
稜は、私が結婚を、それも三度経験していようとは夢にも思っていなかったという。三度目がまづるでさえなければ諦めもついた、私とは、世間が不義と揶揄する間柄を賞翫するだけで満足だったろう。そうも稜は付け足した。
稜は、まづるを占うまでもなかったという。
まづるは私とお兄様との関係を憂いながら、それを悪徳と思いつめていた。一対一の愛情は、一個人を押さえ込み、破滅に追い込む。特に私は、一度、人間が道徳と賛美するような感情に迷ったような言動をとった所為で仏野の屋敷を追われ、今も逃亡生活を余儀なくされている。
「妬いてるんでしょうって、からかってあげたわ。姫猫と遊さんを羨んでいたのは私も同じ。くだらない人間とまぐわう貴女は美しい。特に、抱かれる貴女は。私はそんな貴女を眺めて恍惚に酔っていた反面、貴女を引き立てる愚民達になりたかったわ。私だってとりたてて傲れる血統でもない庶民だし、貴女のメイド達と変わらない。まづるだってそうよ。貴女に比べたら……。だけど、彼女は違った」
「──……」
「姫猫に愛されていた。姫猫を愛していた」
二日前の憤怒が私に襲いかかる。
稜は、正気で愛やら悋気やらを語っているのか。百歩譲って、稜とまづるが私を独占したかったところは事実だとする。彼女らの根拠は、本当に、人間が人間を桎梏する類の感情か。
「私は愛なんてどうでも良いわ、姫猫」
稜の片手がテーブル越しに私に伸びた。
私の頬を、慈しみ溢れる愛撫が流れていった。
「邪魔者を排除しただけ」
「…………」