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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと

* * * * * * *


 お姉様が退出しても、狂人達の奇行は激化の一途を辿った。


 お兄様は、傍観を決め込んでいた。私をまさぐっていた連中には、いつかの監獄もとい会員制のソープクラブに通っていた客達のように本気で肉棒を滾らせていた者と、おそらく二年前、お姉様に意見した私に反感を募らせていた米国人らのように、ただ暴力の正鵠がなぶられるのを面白がっていた者があった。


 ロープが私の身体を激変させた。鞭が肉叢を裂いて、狂人達の唇が、私の頬や手首まで充血させた。


 屋敷を離れて、現実味を帯びない夜の街を流れるタクシーに揺られながら、私の涙は止まらなかった。



 この状況を、和紀さんにどのようにして説明すべきか。



 私には、お姉様達に隠していたことがある。


 和紀さんが優しかったのは、半年ほど前までのことだ。

 どこにでもいる好青年、否、どこにでもいなかったまでに私を慈しんで、私に人間らしく接していた道徳者は、婚約成立を境に血迷い始めた。


 …──縄は好きか?


 ある日、和紀さんは私に問うた。私が首を横に振ると、穏やかな顔をした大学生は、投獄されたお父様を彷彿とする嘆息を密かにこぼした。


 それからというもの和紀さんは、今日に至るまで何度も私に錯綜した楽しみを持ちかけた。

 私は和紀さんに聖書の話を説いたこともある。

 セックスは遊び半分に行うものではない、男女が愛を育むもので、神の創造した命をつ繋いでゆくプロセスだ。そして当然、婚約している恋人同士であっても、籍を入れるまではしたないことをするものではないと。


 先月、和紀さんの配偶者になった私は、既に彼とも性交している。


 今の私を和紀さんが検分すれば、私が錯綜したセックスを好んでおり、しかも不実を犯したという疑心まで誘う。
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