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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと





「ただいま」

「ん」

 ブラウン管から時事ニュースが流れていた。

 ジョッキを傾けてソファにもたれた和紀さんは、幸い、私に目を向けなかった。


「遅かったな」

「ごめんなさい。夕飯は食べた?」

「役所のヤツらと食ってきた」

「お風呂は?」

「いや」

「なら、沸かしてく──…」

 今しがたのぶっきらぼうな相槌からは想像つかない抱擁が、私を襲った。


 私は浴室へつま先を向けたとほぼ同時、背後から、和紀さんに捕らわれていた。


 もみ…………


「ぁんっ」


 くにゅ……くに……もみ…………


「ぁんっ、ぁっ……ぁっ…………」


 じゅる……


「ひぁんっ」



 私の耳朶、首筋が、和紀さんの唾液にまみれていった。

 獰猛な吐息が鼓膜をおびやかして、痛いほどの愛撫が乳房を歪める。



 アルコールが回っているのか。それとも私の優しい夫は、妻の経歴にも深入りしなかったほどの寛容な男だ、肉体の異変も意に介さないのか。

 和紀さんは、充血や瑕疵に一切触れないで、私に鼻をすりつけて、舌を這わせて、彼の下半身を密着させた。


「きよら……きよら……」

「はぁんっ、はぁっ、和紀さん……あっ、いや……こんな……恥ずかしい……」



「黙れ!脱げ!おとなしくオレに従うんだ!」



 私はよそゆきの洋服を脱いで、おりふし和紀さんの平手打ちに喘ぎながら、下着を除いた。


 まだ、和紀さんに疑惑の気色は顕れない。

 私の躊躇に怒鳴りつけて、私の僅かな反駁も抑え込む、それらは和紀さんの憤怒ではなく、彼が法悦に向かうためのとるに足りない行程だ。
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