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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと
「喪に服さなくて良いんですか」
「私には、華やかな場所が似合うでしょう。女達も選び放題。貴方こそ、先日パートナーを亡くしたばかりというのに、さっきもここの娘さんの部屋に呼ばれていたわね」
私は、親しい婦人のパーティーに顔を出していた。
金色の炫耀が降る大広間には、とりどりの夜会服でめかし込んだ淑女や紳士が散らばって、談笑、ダンスに興じている。さしずめ寄せては返す潮汐波、間断ないしめやかなワルツを奏でるのは、一等級の楽団だ。メイド達は客の世話に立ち回り、また、新たな客を案内してくる。別室へ移る客、早々に帰路へ向かう客を送り出す者もあった。
「ああ、さっきの彼女は最高だったよ。金銭的に余裕のある女は、心もおおらかだ。それに知的で、色っぽかった。姫猫さん、何故、きよらは顔以外取り柄がなかったんですか。地位も権力も財力も申し分ない、優れた哲学に恵まれた、貴女のように素晴らしい女性の妹とは思えない。あれは無口で、陰気で、神だの道徳だの誠意だの、今時の小学生でも口にしない幻想ばかり語っていました」
「それは私も気に病んでいたわ。新聞でも見たでしょう、きよらは昔から反抗的だったの。投獄されたお父様も手を焼いていた。和紀さん、……気の毒だったわね。よりによって、きよらは死に間際まで、貴方の精液を欲しがったんでしょう」
誕生日パーティーの夜、私は和紀さんに電話をかけた。
和紀さんが悪戯電話と疑わなかったのは、私がきよらに送った招待状に、屋敷の住所を記していたからだ。
この声を仏野姫猫のものだと信じられないなら、この電話の着信履歴と、住所を照合すれば良い。
そう言って、私は和紀さんに用件を告げた。