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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと
「きよらに人間の楽しみを教えてやれ、その際、オレはあれを殺しても、世間はオレを糾弾しない……か。ふふ、全く、悪いお姉様だ。ところで、恋人はどちらに?」
「え?」
「お屋敷でよくお見かけする方です。きよらの件を済ませた夜も、貴女が腕を組まれていた……」
和紀さんも初めの内は、大真面目にきよらに愛を語っていたらしい。
なるほど、社交界での彼を見ていても、将来性が垣間見える反面、反吐が出るほどロマンティックなところもある。紹也さんの例がある。他人の嗜好を頭ごなしに非難しないが、私まで仲間に入れられるのではいただけない。
「恋人ではないわ。セックスフレンド」
「その他大勢と同じ、と?」
「そういう見方をなさるなら、私は構わないわ」
ただ一人の人を求めて、執着する。
一昨年、私は血迷っていた。
あの頃、左手薬指に煌めいていたプラチナのリング。婚約指輪の台座に嵌めてあったものこそ無価値な水晶片だったが、私はくだらない玩具をくだらない宝箱に仕舞い込んだ子供のように、どちらも大切に握り締めていた。
まづるとの出逢いは、セックスは、衝撃だった。
私の半生を大きく変えた。実際、私達が共に過ごしたのはごく僅かなひとときだったが、私はおそらく一生分の快楽を啜った。
「…………」
愛してはいけない。まづるだけを、見つめてはいけなかった。
彼女なしでも生きていかなければ、私はまた、人間が人間らしいと呼ぶ感情に蝕まれて、落ちぶれる。
「姫猫さん、……」
滲んだ視界に若草色の四角形がぼけて見えた。
「大丈夫ですか?」
私は和紀さんを振り切って、ベランダに出た。
頬が濡れたのは、きっと、ここに着くなり私を抱いた名前も知らない女の愛液が残ってでもいたのだ。半巾は、必要ない。