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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと


「…………」


 幸福など得たくない。どうせ壊れてしまうものなど。



 目を覚まさせてくれたのは、稜だ。





「あっ……ああっ…………」



 ポーチの下方、植え込みの向こうから、少女の喘ぎ声が上がった。

 庭は、星が僅かな光を与えているだけだ。

 私の後方から寄せた光は真下の芝生こそ明るめても、声の隠れた方にまでは至らない。


「ゃんっ、恥ずかしい……」

「可愛い人。ここが良いくせに……──」…………



「っっ…………」



 みだりがましい水音が、私の鼓膜を顫わせた。

 少女を呼んだ女の声が、私の胸に氷水をかけた。


「あ…………」

 私の下半身にまといつく、シャンパンピンクのシルクシフォンが大理石に花を広げる。

 立ち上がれなくなっていた。


 パーティーを抜け出した放蕩者らが、私を無言で慄かせる。


「見て……ね、指、入ってる……ちゃんと見な…………」



 似ている。


 私の耳は、最初で最後に愛した人の声の、幻聴まで拾うようになってしまったのか。
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