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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと
* * * * * * *
社交界に復帰して、日本の生活にも慣れると(もとよりここが私の故郷だ)、私は正式に家長の権利を引き継いだ。
お父様が切り盛りしていた諸々の会社は、変わらずお兄様が管理している。私は一切の労働も好かないし、経済やら経営やらにまるきり明るくないのでは、さすがに危険を伴うからだ。
ただし、私は時間をもて余していた。
このところ私の性欲は、もっぱら稜や典子さんで満たされる。社交辞令でセレブリティ達の閨房を訪うことはあっても、今日までにも何度、私はよその寝台に裸体を投げ出して、居眠りしそうになったことか。
「それで遊さんに製薬会社を譲ってもらったの。姫猫、ごめんなさいね。貴女を昼間、淋しくさせて。私だって学会や呪術の仕事がなかったら、四六時中、貴女を可愛がっていたいくらいよ」
「いいえ、稜。貴女は外に出て頂戴。そして退屈な私に、愚かで愉快な話を聞かせて。今日はどんなクライアントが貴女を頼ったの。稜は、お金で解決してあげたの?」
「ええ。腰のラインを見たところ、それほど好みではなかったし……。やっと初恋を覚えたばかりの、つまらないうぶな子だったから。彼との仲を占ってあげて、フェロモンフレグランスを半額で売ってあげたわ」
「まぁ、庶民にそんな親切を……」
「姫猫」
膝に揃えていた私の手の片方を、稜がやおら持ち上げた。
実里があくまで事務的に、入浴を終えたばかりの私の髪を乾かしていた。
腰まである黒髪を、数回に分けてタオルに挟んで押さえてゆく。僅かに手つきが遅くなったのは、私達のはかなしごとが、ドライヤーの音に消えることを案じたからか。
「実里。先にお願い」
「畏れ入ります、姫猫様」
長年私に仕えたメイドは、申し分ない手つきで主人の髪を乾かした。そうして用が終えると、すみやかに退室していった。