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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと
「貴女以外、何もいらない」
「…………」
「陳腐な台詞、そう思ったでしょう」
「…………」
的中だ。
私を苛む違和感が、稜らしからぬ言い草に、刹那疼いた。
「残念ながら本心よ。姫猫を愛しているのだとか、大切だとか、もちろんそこまで落ちぶれた根拠じゃないわ。世界で最も価値ある宝石を、死に物狂いで手に入れたがる、そのためには盗みも詐欺も殺人もする、さしずめいかれたコレクターと同じ程度よ。姫猫のためなら、些細な欲望は捨てられる。とるに足りない欲望なんて、貴女とこうして過ごせる時間の足許にも及ばない。だから、今の私には最低限のメイドだけがいれば良い。贅沢をするための費用はいらない」
「いかれた宝石コレクターなら、些細な欲望も満たすでしょう。私は、何も我慢したことはない。稜が言ってくれたから。一切の我慢もならないと」
「それは私の占いが示したこと」
「…………」
「私が、貴女をまづるから奪うためにはどうすべきか。占って、出た道しるべ」
「…………」
欲望とは、何だろう。
稜の話を考察すれば、欲望と欲望とは、まるで鬩ぎ合う性質を備えてでもいるようではないか。
それは私も例にもれない。私こそ、あまねく欲望に恵まれている。
何不自由ない。私を桎梏していたお父様はいない。有本さんも、お母様も、きよらもいない。
私に自由に出来ないことが、他に何があるのだというのだ。