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淫徳のスゝメ
第9章 *最終章*私が淫蕩に耽った末のこと
「稜、……」
強欲と禁欲は、或いは紙一重というのか。
私は強欲であるために禁欲し、きよらやお母様は禁欲家を貫くために、強欲だった。
きよら達に限らない。
他人が他人に合わせたがる根底には、独尊的な我欲が根を張っている。孤独を逃れんと他人を求める。他人を求めて、他人を引き寄せられるだけの表層を取り繕う。引力を兼ねた人格を捏造するために、ひと握りの他人をなじって、傷つけて、排除する。彼女らの忍耐は、どれだけの期待を含んでいるか。
私は強欲であるために、私を除くあらゆるものを否定していた。そこにはささやかな甘い蜜もある。安寧がある。だが、仏野姫猫に似つかわしい、途方もなく大きなもののために、ささやかなものを妙諦してきた。
まづるも、私を手に入れたがったばかりに、手に入れないで、稜という恋敵に奪われた。
「……出かけるわ。丸井を呼んできて」
「就業外よ、もう寝てるでしょう」
「なら、歩く。着替えるわ」
「こんな時間にどこへ行くの」
「──……」
私はクローゼットを開けて、スパークリングオーガンジーが花柄を透かしたピンク色のジャンパースカートを選んだ。とりあわせには、薄紫の薄手のコットンのブラウスと、ラビットファーがアクセント程度にあしらってあるブルゾン。
元高校教師として、それでなくても、資産家令嬢のこんな時間の一人歩きは関心しない。
そうした稜の説教を無視して、私は手早く髪をといて化粧をしてゆく。